バス、車内にて
バスの運転手さんが「50円足りませんよ」と何度も言っている。対してお婆さんは知らんといった様子で、「ない」と不貞腐れている。そんなやりとりが何度か続き、車内はどうしようもない雰囲気になっている。
誰がどう見てもお婆さんの無賃乗車だが、お婆さんは終始不貞腐れていて、そのまま無言でバスを下車した。運転手さんは追わずに無言でドアーを閉めた。
商店街、アーケードにて
目の前に男の子が飛び出してきた。急ぎ足で歩いていた僕が慌てて足を止めたものだから、スニーカーとタイルの摩擦できゅっ!と高い音がアーケードに響いた。男の子の後ろにいたお母さんに「きゅっ!って!」と言われた。男の子が笑った。僕は下を向いて真顔だった。しばらく歩いた後、思い出して少し笑った。